イントロダクション
日本海の沖合にぽっかりと浮かぶ山形県唯一の有人離島——飛島(とびしま)。酒田港から定期船で75分、島の面積は2.75㎢。本土を望めば雄大な鳥海山、豊かな自然をたたえた島は、その全域が国定公園に指定されている。かつて日本海側の海の交通の要所として栄え、島民の多くは漁業や農業で生計を立ててきた。「北は樺太、南は九州まで、いろいろな思い出があるけど、今はわびしいもんだ」と往時を懐かしむのは、漁師の和島十四男さん(80)。過疎と高齢化が進み、現在は140人ほどが暮らす。今年は、島でただ一人の中学生・渋谷新くん(15)が卒業の時を迎えようとしていた。高校進学が決まれば、新くんは島を離れ、飛島小中学校は休校となる。いっぽう、UターンやIターンで島に来た若い人たちがいる。島内に雇用を生み出そうとユニークな取り組みを続ける「合同会社とびしま」の共同代表・本間当さん(38)もその一人。「“漁師にだけはなるな”と育てられたけど、なぜか島に戻ってきた」と笑う。
人が人として、社会を営み、生きていくために本当に必要なものとは何か? 平成最期の一年間、飛島の人々の暮らしを記録した本作が映し出すのは、生活者たちのエピファニー、継承と再生の兆し、ある時代の終わりと始まり。監督は、文化庁映画賞受賞『ただいま それぞれの居場所』の大宮浩一と毎日映画コンクール受賞『桜の樹の下』の田中圭。
スタッフ
企画・製作・監督
大宮浩一(おおみや・こういち)
1958年生まれ。映画監督、企画、プロデューサー。2010年、『ただいま それぞれの居場所』を企画・製作・監督。同作は介護保険制度導入から10年を経た介護福祉の実状と自らの理想とする介護を実現するため施設・事業所を立ち上げた若い介護スタッフたちの取り組みを描き、平成22年度文化庁映画賞〈文化記録映画大賞〉を受賞。同年、若い介護スタッフたちが主催したトークライブと彼らの日常を記録した『9月11日』を企画・製作・監督。山形国際ドキュメンタリー映画祭2011〈ニュー・ドックス・ジャパン〉で上映される。11年、東日本大震災で津波の被害を受けた土地の風景とそこで出逢った人々の声を記録した『無常素描』を企画・製作・監督。震災後に制作されたドキュメンタリー映画としてもっとも早く同年6月に劇場公開。山形国際ドキュメンタリー映画祭2011〈ともにある Cinema with Us〉他、ニューヨーク、パリ、ロンドンなど国内外で上映される。12年、介護やケアの現場で人生最期の瞬間に立ち会う介護スタッフたちの葛藤や家族の想いを見つめた『季節、めぐり それぞれの居場所』を企画・製作・監督。第36回山路ふみ子映画賞〈山路ふみ子福祉賞〉を受賞。13年、日本のフラメンコの先駆者であり世界的トップダンサーである長嶺ヤス子の現在を活写した『長嶺ヤス子 裸足のフラメンコ』を企画・製作・監督。14年、ベトナム戦争従軍取材などで知られる報道カメラマンの石川文洋の青年期と現在を描いた『石川文洋を旅する』を企画・製作・監督。SIGNIS JAPAN(カトリックメディア協議会)による〈シグニス平和賞〉を受賞。17年、知られざる夜間保育園の取り組みを描いた『夜間もやってる保育園』を製作・監督。
監督
田中圭(たなか・けい)
1987年生まれ。2013年、日本映画学校(現・日本映画大学)卒業。訪問介護や結婚式ビデオの制作をしながらドキュメンタリー映画を制作。初監督作品『桜の樹の下』が山形国際ドキュメンタリー映画祭2015〈日本プログラム〉で上映、ドイツのニッポン・コネクション2017で〈観客賞〉〈審査員特別賞〉をW受賞、第71回毎日映画コンクール〈ドキュメンタリー映画賞〉を受賞。大宮浩一監督の『夜間もやってる保育園』に監督補として参加し、本作で共同監督を務める。現在、自身の企画・監督作としてドキュメンタリー映画『夢ト女トヒットエンドラン』を製作中。
撮影
前田大和(まえた・やまと)
1990年生まれ。2013年、日本映画学校卒業。卒業制作作品『関の里』で撮影を担当。劇映画、企業VP、テレビ中継の撮影助手として活動。近年は自主製作映画、Web CM、舞台撮影、各種記録撮影などのカメラマンとしても活動。『モーニングセット、牛乳、春』(13/サトウトシキ監督)撮影助手。『桜の樹の下』(15/田中圭監督)、『夜間もやってる保育園』(17/大宮浩一監督)で撮影を務める。
整音
石垣哲(いしがき・さとし)
1959年生まれ。株式会社イメージファクトリィ取締役。テレビ、ラジオの音響効果マンとして数々の作品に参加。ラジオの参加作品では、芸術祭賞、民間放送連盟賞、ギャラクシー賞、クリオ賞、ACC賞の受賞歴がある。ゲームやアニメーション作品の音響効果マンも務める。近年は、テーマパークや施設のサウンドデザインチームに参加。2016年、ニッポン放送報道スペシャル「子どもたちの震災~しゃべっていいんだ」で第12回日本放送文化大賞〈ラジオ・グランプリ〉を受賞。2018年、ニッポン放送報道スペシャル「My Dream」で日本民間放送連盟賞〈ラジオ・グランプリ〉、文化庁芸術祭〈ラジオ部門ドキュメンタリーの部大賞〉受賞。大宮浩一監督作品では『ただいま それぞれの居場所』『9月11日』『季節、めぐり それぞれの居場所』『石川文洋を旅する』『夜間もやってる保育園』で音響デザインを、『無常素描』『長嶺ヤス子 裸足のフラメンコ』で整音を務める。
編集
遠山慎二(とおやま・しんじ)
1981年生まれ。日本映画学校卒業後、フリーランスとしてドキュメンタリー、教育映画、VPなどの制作、演出、撮影、編集、劇場予告篇の演出を手掛ける。2007年、映像制作者、グラフィックデザイナーによるグループRESTA FILMSの立ち上げに参加。主な編集作品に『URINARA 祖国——母のまなざし、息子の声』(05/河真鮮監督)、主な撮影作品に『旅芸人の海』(08/成瀬慧監督)。大宮浩一監督作品では『無常素描』『長嶺ヤス子 裸足のフラメンコ』『石川文洋を旅する』で編集、『9月11日』『夜間もやってる保育園』で撮影を務める。
劇場情報
劇場イベント情報
★山形県鶴岡市・鶴岡まちなかキネマ|10月15日(金)9:40の回・16:25の回上映後、大宮浩一監督による舞台挨拶※上映劇場・日程が変更となる場合がありますので、
鑑賞の前に必ず各劇場にご確認ください。
地方 | 都道府県 | 劇場 | 電話番号 | 公開日 |
---|---|---|---|---|
北海道・東北 | 山形県 | 鶴岡まちなかキネマ | 0235-25-0613(山王まちづくり株式会社) | 新「まちキネ」プレ上映 2021年10月15日(金)~ *プレ期間中は金土日祝日限定の上映 |
中部 | 長野県 | 松本CINEMAセレクト | 0263-98-4928 | 近日公開 |
北海道・東北 | 北海道 | シネマ・トーラス | 0144-37-8182 | 近日公開 ※〔仮設の映画館〕での上映はありません※ |
関東 | 東京都 | ポレポレ東中野 | 03-3371-0088 | <上映終了> 6/1(月)~7/24(金) |
関東 | 東京都 | 座・高円寺2 | 03-5570-3551(座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル実行委員会) | <上映終了> ★第12回 座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル★ 2021年2月12日(金) 10:00~ 上映後トーク:大宮浩一監督 |
関東 | 神奈川県 | 横浜 シネマジャック&ベティ | 045-243-9800 | <上映終了> 10/10(土)~10/16(金) |
関東 | 神奈川県 | あつぎのえいがかんkiki | 046-240-0600 | <上映終了> 7/25(土)~7/31(金) |
関東 | 埼玉県 | 深谷シネマ | 048-551-4592 | <上映終了> 10/4(日)~10/10(土) |
関東 | 群馬県 | シネマテークたかさき | 027-325-1744 | <上映終了> 7/4(土)~7/10(金) |
北海道・東北 | 北海道 | シアターキノ | 011-231-9355 | <上映終了> 9月25日(金)のみ |
北海道・東北 | 青森県 | フォーラム八戸 | 0178-38-0035 | <上映終了> 6/26(金)~7/2(木) |
北海道・東北 | 岩手県 | フォーラム盛岡 | 019-622-4770 | <上映終了> 6/26(金)~7/2(木) |
北海道・東北 | 山形県 | フォーラム山形 | 023-632-3220 | <上映終了> 7/10(金)~7/16(木) |
北海道・東北 | 山形県 | フォーラム東根 | 0237-43-8060 |
<上映終了> 7/10(金)~7/22(水) |
北海道・東北 | 山形県 | イオンシネマ三川 | 0235-68-1661 | <上映終了> 6/19(金)~8/13(木) |
北海道・東北 | 宮城県 | フォーラム仙台 | 022-728-7866 | <上映終了> 6/12(金)~6/25(木) |
北海道・東北 | 福島県 | フォーラム福島 | 024-533-1717 | <上映終了> 6/26(金)~7/2(木) |
中部 | 新潟県 | シネ・ウインド | 025-243-5530 | <上映終了> 2021年3/27(土)~4/2(金) *3/30(火)休映 |
中部 | 石川県 | シネモンド | 076-220-5007 | <上映終了> 8/8(土)~8/14(金) |
中部 | 愛知県 | 名古屋シネマテーク | 052-733-3959 | <上映終了> 7/4(土)~7/10(金) |
近畿 | 大阪府 | 第七藝術劇場 | 06-6302-2073 | <上映終了> 6/20(土)~7/10(金)まで |
近畿 | 大阪府 | シアターセブン | 06-4862-7733 | <上映終了> 7/11(土)~7/31(金) |
近畿 | 京都府 | 京都シネマ | 075-353-4723 | <上映終了> 6/19(金)~7/9(木) |
近畿 | 兵庫県 | 元町映画館 | 078-366-2636 | <上映終了> 12/19(土)〜12/25(金) |
中国・四国 | 広島県 | 横川シネマ | 082-231-1001 | <上映終了> 9/15(火)〜10/7(水) |
コメント
順不同・敬称略
日本海に浮かぶ島。暮らしや風景のなかに、島に生きる人々の声が多層的に織りこまれている。厳しい現実にいだかれながら、生きることの意味をしなやかに、したたかに問いかける人々。島の人生が未来を照らしている。
赤坂憲雄
民俗学者
「コミュニティデザインの現場を観てみたい」と言われることがある。そんな人にはこの映画を観てもらいたい。初めて訪れた地域を歩くというのはどういうものなのか。
「この地域に未来なんて無いのかもしれない」とか、「この人達がいるなら何かできるかもしれない」とか、揺れ動く気持ちを追体験できるだろう。
山崎亮
コミュニティデザイナー
私たちはいい加減、気がつかなければいけない。島人が1800人から140人に減ったことではなく、その140人にとって、たったひとりの中学生がどんな存在なのかということを。
目の前のたったひとつのいのちがもたらす恵みを。何もないから島には帰るな、と言われてきた世代から、この島でこそ生きていきたいと移り住む世代へ。
小さな島、小さな集落で、ひとつひとつのいのちは、いっそう輝きを増していく。
纐纈あや
映画監督
見終わったあと、食べていないはずのイカの刺身の余韻が口のなかにふんわりと残った。
例大祭の太鼓、島民たちの笑い声、鳥のさえずり。いくつもの音が耳の奥で反響している。美しい島の、美しい物語。
大石始
ライター
飛島に暮らすみなさんの、穏やかなたたずまいと柔らかい笑顔に心ひかれました。
「地域循環共生園」を考えるうえでのヒントにあふれた、おすすめのドキュメンタリーです!
指出一正
ソトコト編集長
世代、職業、出身も違う人々が様々な形で過疎高齢化の離島に関わるストーリーから、リアルな課題と再生への希望を見出せる秀逸な作品。 脈々と受け継がれてきた営みに対する敬意を持つ若者(移住者)の「島+何か」という言葉が印象的。
これからの地域の捉え方、地域にとっての企業のあり方、寄り添い方、働き方のヒントも。地域のリアルと未来を考える上での最上の教材です。
堀口正裕
TURNSプロデューサー
島を離れる人、流れ着いて根付く人、離れない人生を選んだ人。それぞれの人生が潮の流れのように漂う。山形県に住む私ですら遠く感じていた飛島の暮らしを、たおやかに編み込んだ珠玉の映画。
小舟に釣竿を垂らしながら潮風を感じているような、そんな穏やかな島の時間に酔いしれる。
渡辺智史
ドキュメンタリー映画監督『おだやかな革命』『YUKIGUNI』